Sayer Says in Japanese

Monday, August 09, 2010

水木しげる氏の作品を読む

10年8月9日(月)

「ゲゲゲの女房」に刺激されて、以前買い込んであった、ちくま文庫を中心とする、水木しげる氏の作品を読んでみた。『悪魔君千年王国(全)』(ちくま文庫)はすでにその内容について書いたので、別の作品について。『河童の三平(全)』(ちくま文庫)も味わい深い作品である。76頁で、おじいさんが死神に声をかけられたときに、頭のうしろを手で掻きながら「おむかえのくるころだと思っていた」とつぶやく場面がいい。日本文化の無常観をよく表わしていると思う。神秘家列伝は角川ソフィア文庫だが、其ノ壱に出てくるミラレパとは、ひょっとして劇画版の『風の谷のナウシカ』に出てくる皇帝ミラルパのモデルなのだろうか。其ノ参に登場する出口王仁三郎や井上円了も興味深かった。今は、同じ巻の平田篤胤を読んでいる。其ノ四には、柳田國男も登場する。彼も霊感の強い、神秘的な人だった。そうでなければ、山人考や遠野物語を書けるはずがない。もっとも、後者は一応聞き語りの形をとってはいるが。しかし、その柳田ですら、南方熊楠の前では単なる秀才にすぎない。ここでふたたび水木さんの登場である。彼の描いた南方は実に素敵だ。南方は米国留学中に教室でションベンをしたそうだ。うらやましいなあ。まるでじゃりン子チエのチチのテツみたいではないか。彼は子供の頃、道の真ん中でうんこをしたというエピソードがあった。こちらはフィクションではあるけれど、ほんとにテツは素敵だ。『じゃりン子チエ』を何度読んだことか。
 水木氏の作品にもどると、あちこちに体制批判、権力者批判が見受けられる。たとえば、『ねずみ男の冒険』(ちくま文庫)の冒頭に掲げられている名作「勲章」は、平安時代に設定しているとはいえ、勲章のばかばかしさを示している。もっとも、ご本人はちゃっかり勲章のたぐいをもらっているようだが。「錬金術」と言う作品も素敵だ。ゲゲゲの鬼太郎では憎まれ役をつとめることが多いねずみ男だが、この作品では丹角先生として、男の子に一種のさとりを開かせている。

斎藤成也

増田義郎先生著『日本人が世界史と衝突したとき』を読む

10年8月9日(月)

昨日、隠れ家でなにかおもしろい本がないかと探していたら、敬愛する増田義郎先生の書かれた本を見つけた。これまでに増田先生の著書は5冊ほどしか読んだことがないが、どれもすばらしいものだったので、きっとこの『日本人が世界史と衝突したとき』(1997,弓立社)もおもしろいだろうと思って読み出したのである。今日は某会議に出るため東京に行ったので、帰りの新幹線で読了した。

すばらしい内容だった。日本文化のある面でのinvariable aspectについて、ひょっとすると縄文時代にさかのぼるかもしれないという考察を、歴史時代を中心とする膨大な考証に基づいて展開しているのである。あとがきに、若い時米国に留学された時の思い出が記されており、江上波夫氏と宮崎市定氏にお会いしたことが最大の収穫のひとつだと記されていた。ここに、増田先生の歴史重視主義が色濃く表われているように思う。私も同感である。すべては歴史(あるいは歴誌)なのだから。

本書の内容については、『日本人が世界史と衝突したとき』を直接読んでほしい。さきほどアマゾンで調べたら、もちろんちゃんとまだ売っています。日本の歴史に興味のある人には、必読の書である。

斎藤成也