Sayer Says in Japanese

Saturday, September 06, 2008

藤田一郎氏と佐々木閑氏による「科学と仏教の接点」

科学紀元8年9月7日(日)

自宅より発信する第2信です。 
 昨日、標記の講演会に参加しました。十数年ぶりに再会した、大学時代の生物学科の同級生、藤田一郎さん(大阪大学教授)による、脳の働きによって錯視が生じるという現象を中心としたとても刺激的で勉強になる1時間半の講演と、先月にクラス会でお会いしたばかりの、高校時代の同級生である佐々木閑氏(花園大学教授)による仏教の本来のすがたの講演でした。
 藤田氏が最後に紹介された2光子レーザー顕微鏡によるニューロンやグリア細胞の非侵襲的観察は、たしかにすばらしいものでした。藤田研究室にはじめてこの機械が導入されて、最初に映し出された脳内の映像に、みんな感動したそうですが、ハワイのすばる天体望遠鏡のファーストライトの感動を、以前小平桂一前総合研究大学院大学学長が講演で話しておられたのを思い出しました。自然科学の大きな発展には、このように新規技術によるまったく新しいレベルの観察データが重要なことを、改めて思い知らされました。
 佐々木さんの講演の途中で、私もちょっと質問というか、コメントしてしまいました。仏教のことというよりも、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教という、絶対神だけを信じる一神教のなかで、イスラム世界ではルネサンス以前には多くの偉大な学者が輩出したのに、その後自然科学の発展がほぼ欧州に独占されたのはなぜだろうかという疑問に、「帝国」の存在があったのではないかと発言しました。欧州はいくつかの国に分断されて、いつも技術革新があり、それがやがて産業革命を生みだしました。ところがイスラム世界から中国にいたる地域は、オスマントルコ帝国、ムガール帝国、明・清帝国といった大帝国が連続したために、自由な発想を前提とする自然科学が育ちにくかったのではないか、という考え方です。
 宗教について、私は今度は質問をしました。キリスト教では神秘主義が否定されている(たとえばフスはひあぶりにされました)のに対して、イスラム教はスーフィーのような神秘思想中心のグループがかなり大きな勢力になっている。仏教では神秘思想はどうなのかという質問です。佐々木氏の答えは、大乗仏教がヒンズー教からの影響で神秘主義を取り入れたということだったと思います。ただ、大乗仏教は一神教的な要素があるので、そうなるとキリスト教やユダヤ教も本来が神秘主義だということになります。
 まあそうかもしれません。処女懐胎や復活といった、私にはまったく信じることができない「奇蹟」は一種の神秘ですから。むしろ、神の存在を前提としない神秘こそが、ほんとうの神秘だと思うのですが。

斎藤成也

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