Sayer Says in Japanese

Wednesday, August 20, 2008

越前和紙作成の現場を見学する

科学紀元8年8月20日

 今日は彼女の誕生日である。僕をよく知っている人なら,「彼女」が誰かはだいたいご想像していただけると思う。歌手で,香港出身で,男の子3人の母でもある。今日もひそかに彼女の誕生日を祝福した。
 昨日,僕の本籍地にほど近い,越前和紙の工場を見学した。家人に日本画を学んでいる者があり,くっついていったのである。福井から車で南下すること40分ほどで,旧今立町,現越前市に到着する。岩野平三郎製紙所という,日本有数の和紙制作所である。
 見学は和紙の原料である,こうぞ,みつまた,がんぴの乾燥したものを入れた倉庫からはじまる。僕はさっそくへまをしてしまった。楮という漢字を読めなかったのである。案内の方に,「小学生のために,ひらがなも書いてあります」と,この字の裏に「こうぞ」と書いてあるのをしっかり見せていただいた。
 次は原料(ここでは麻も使うそうだ)をぐつぐつと煮る大きな鍋。直径2メートル近くあるだろうか。こうしてセルロースだけにするのだろう。ここでふと考えてしまった。どうして動物はセルロース分解酵素を持ってないのかなと。まあいつもバクテリアがからだの中にいるから,彼らがセルロースを分解してくれて,それで十分なのだろう。はて,そうなのかな。これは進化学としてなかなかおもしろい研究テーマかもと思った。
 さて,セルロースは白く,美しい。このような状態になっても,形状はまだ植物のままだ。それを機械で切断してゆく。ここは機械でいいようだ。なんか,トイレットペーパーが水に溶けきれずに残った巨大な固まりのような感じ。比喩が悪くてすみません。ここでトロロアオイの根っこからとった粘液を加える。ムコ多糖類かなあ。
 いよいよ紙漉きの工程に来る。広い工場のあちこちに,長方形のおけがあり,そこに紙の原料である白っぽいスープのような感じの液体が入っている。その中を戸板のようなものを通すのだ。紙によって漉き方が異なるそうだが,だいたいは二人がペアになっている。熟練した年上の人と年下の人が組んでいる。最初じっくり見たペアは,かなり厚い紙を漉いていた。紙原料スープの液が,二人の手によって戸板の上を動いてゆく。ソリトンが生まれ,二つの波はぶつかっても透過してまたふたつの波になって,やがて端に到達する前に消えてゆく。これが実に美しいのだ。
 飽きることがない。波の芸術という感じ。また,二人は無言で作業しているのが,いい。いきがあっていれば,言葉なんかいらないのだ。このペアを見学したあと,他のペアを3組くらい見学した。みな無言だ。大部分女性だが,男性もいる。一番大きな紙を漉いているのは,3人グループで,そのうちの二人が男性だった。
 一巡して,最初に見学したペアのところにもどってきた。ちょっとがっかりしたのは,今度はなにかお二人で話しているのだ。う〜ん,正午に近づいたし,ちょっと疲れてきたのかな。なんとなく作られる波の美しさにも,かげりが見られる。でも,一連の複雑な工程を淡々とこなしているのは,つくづく美しい。
 最後が紙の乾燥である。ここではまるで紙が布のように見える。ここでも僕はへまをしてしまった。日本画を描くための和紙を制作しているところなのに,「障子」(ふすまと言うつもりだったが・・・)に使うのですか,と言ってしまって,むっとされてしまった。あとで家人にしかられた。でも,狩野なんとかはふすまにすばらしい絵を描いたんだけどな。
 製紙所を辞する時にどしゃぶりになり,すぐに車に乗り込んで昼食へ。僕の本籍地である今立の粟田部にはおいしいそばを出す店がいくつかあるが,そのひとつである勘助へ。僕は前と同じく,おろしそばとカツ丼を頼む。ここのカツ丼は最高である。中学生の時に,母親に連れられて,父方の親戚を訪ねて粟田部を訪れた時に,カツ丼をいただいたが,とてもおいしかったのを憶えている。おそらくこの勘助のカツ丼だったのではなかろうか。 僕のひとりごとでない証拠に,ぼくらの後ろで食べていた四人組は全員カツ丼を食べていたし,その後ろの一人で食べていた男性も,僕と同じく,おろしそばとカツ丼だった。もちろん,おろしそばもすばらしい。
 つぎに勘助に行ったら,今度はオムライスを食べたいな。

斎藤成也

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